AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

     

 まだ隼人は戻っていなかったが、隆生は部屋に入るとスーツケースに土産物と大事なジェルの壷を壊れないようにタオルなどで包んで、奥へとしまい込んだ。
 そして幾つかのサービスで貰ったエッセンスと、「疲れがとれる」と言われて買った隼人用の入浴剤を浴室へと運んでおく。
『今夜はこの入浴剤を、お風呂に入れたらどうかな』
 そうすれば隼人もリラックスして……ロマンティックなムードになるかも知れない。
「よし、隼人が帰る前に一仕事だ!」
 ノートパソコンを持って、隆生はそそくさとテラスへ出た。
 隆生は帰国してから記事を書く時のために、毎晩覚え書を作っている。目に留まったパンフやデジカメで撮影した画像などをすぐその場で取りこめるので、便利なことこの上ない。しかしこういった便利なものがなかった頃は、メモや写真に頼り、記憶に焼き付けるだけで済んでいたのだ。
 結局のところ、仕事は増えただけである。毎晩遅くまでホテルの部屋で作業をしている隆生に、隼人は、
「ほんっと、仕事の虫だなー、隆生は」
と呆れていた。朝の早い隼人はいつも先に寝てしまい、新婚旅行のつもりだったのに、フランスに入ってからまだあまり愛を交わしていないのである。
 でも愛し合う機会があまりなかったのは、どうも早寝の隼人のせいだけには出来ないと隆生は気づいた。自分も隼人を先に眠らせ、勝手に仕事をしていたのだ。
 しかし今夜はどうしても隼人と甘い時を過ごしたい。
 隆生は心を決め、昼下がりの優しい潮風や輝く太陽に目もくれず、仕事に励んだ。
 隼人が戻って来たのは3時過ぎだった。
「隆生ッ」
 大声で呼びながら、部屋に走り込む。
「遅くなって、ごめん! でもお土産を買ってきたよ?」
 ぴょんぴょんと跳びはねるようにして、持っていた紙袋の中身をテーブルにあけた。
「隆生、こっちへ来て、見てくれよ、これ!」
 乾燥したセージやタイム・フェンネルなど香草の袋詰めに加え、黒っぽい味噌のようなものが入った瓶もある。
 テラスからパソコンを抱えて引き上げてきた隆生は、珍しそうに屈み込んだ。
 隼人は瓶を手にとって、「タブナードだよ」と説明する。ブラックオリーブやガーリック、アンチョビなどをすり潰してオリーブオイルと練り合わせた、プロヴァンス名産のペーストだ。パンに塗って食べたり、調味料として料理の隠し味に使われたりもする。
「日本に帰ってからちょっとメニューに加えようと思うんだ」
 土産といっても、結局は料理に関する品々ばかりなので、
『隼人もやっぱり仕事の虫だよな』
 隆生はおかしくなる。
「隆生も何か、買った?」
「うん、買ったよ」
「じゃあ、あとで見せて!」
 隼人は自分のバッグに品々をしまうと、「暑かったーッ」とバスルームに飛び込んだ。
 短パンとTシャツを脱ぎ捨て、バスタブに入る。シャワーを捻ろうとしたところで、石鹸台に見慣れぬ瓶が置いてあるのに気づいた。
「何、これ?」
 怒鳴る隼人に、隆生はバスルームに足を運んだ。
「うわッ」
 子供のように無防備に、全裸で立っている隼人がいきなり目に入り、隆生はギョッとした。急いで目を逸らすと、
「あのね、それは隼人へのプレゼント。入浴剤だよ」
と答える。
「へえー、じゃ、今、使ってみていい?」
「うん、いいよ。疲れが取れるって、お店の人が言ってた」
 言いながら隆生はベッドルームへと退散した。
『なんて言うか……無邪気って言えばそうなんだけど……』
 恋人同士なのだから、もう少し気が付いてもよさそうなものだ。あんな姿を恋人に見せたら……いくら真っ昼間とはいえ、その気になってしまう可能性だってあるのだから。
『まあ……そこが隼人なんだけれどね』
 隼人の方は、まったく隆生の困惑に気づいていない。さっさと出て行った隆生に「なんだよー」と呟きながら、湯栓を捻る。壷の中身を手にとって、香りを確かめた。
「隆生ッ、これ、ほんとに入浴剤なの? 匂い、あんまりないよ?」
 水音に負けじと大声を出す隼人に、隆生も大声で応える。
「うん、特別に匂いのしないのを選んで貰ったんだ。だって隼人は、匂いがついちゃうと仕事の時、困るだろ?」
「そっかー」
 隼人は十分上昇した水面に、何滴か液を垂らしてみた。そして湯舟に身体を沈める。
「でも、なんだかあんまり、効いた気、しないよー」
「えっ、何だって?」
「だからさー」
 せっかく隆生が気を使ってわざわざ匂いのしないものを、選んで買って来てくれたのだ。気が付いて隼人は言葉を飲み込む。
「何でもない!」
『でもやっぱ、効く気がしないなー。もう少し入れてみようかな……』
 湯栓を止めると、壷を傾け、ドボドボと追加した。湯の色は変わらず透明のままで、相変わらず匂いはしない。
「なんか、物足りないなー」
 石鹸台に壷を戻すと、後ろに置いてあった香水のサンプルのような小指ほどの瓶に気づいた。
「なんだろ。香水のサンプルみたいだけど……匂い、するかな?」
 一つ手にとって、蓋を開けてみると、キンモクセイに似た甘い香りがした。
「いい匂い……」
 どうせ今、シェフは休業中なのだ。香りがついたってかまわない。
「入れちゃおうっと」
 中身を一気に湯舟にあけた。
 湯気がふわりと立って、鼻孔をくすぐる。
「いい匂いだなー。他のはどうなのかな?」
 もう一つ、手にとって蓋を開ける。こちらはシトラス系の爽やかな香りだ。
「こっちはどうかな」
 クローブのような、麝香のような、濃厚な香りが匂い立つ。
「こっちがいいな」
 片方を元に戻そうとした時、手が滑って持っていた瓶が湯の中に沈んだ。
「うわっ、しまった!」
 いそいで拾い上げようとした拍子に、残りの瓶も湯に浸かってしまった。
 焦って手で底をさらい、瓶を引き上げる。湯の中に渦ができ、その渦が牛乳を流したように白濁してきた。同時になんともいえない甘い香りが立つ。
「いい匂いだなー。やっと入浴剤って感じがしてきたよな」
 独り言を言いながら、隼人は肩まで湯に浸かった。
 今日は朝からずっと、市場の中を重い荷物を持って歩き回ったのだ。痛む腕を自分で摩る。
「これももう少し、入れちゃおう。沢山入れればうんと効くよ、きっと」
 湯がほんのりとピンクに色づいてきた。
『へぇー、綺麗だなー』
 隼人は上機嫌になる。
「あのさー、隆生ー、市場でさぁ、でっかいカジキマグロを見たんだよー、それからさぁ」
 喋っているうちに、だんだん身体の芯が蕩けるように熱くなった。今まで痛んでいた筋肉からすっかり凝りが取れている。どころか、何やら痺れるような、感覚が麻痺したような気がしてきた。
「あれ?」
 甘い香りがいっそう強く感じられる。頭の中心がボーッと霧がかかったようだ。
「あれ……湯あたりしちゃったのかな?」
 湯舟から立ち上がろうとしたが、手足に力が入らない。瞼が重くなって、下がってきた……。
「り……りゅう……せいッ」
 ベッドの上で枕に背をもたせかけ、隆生はパソコンの作業を続けていた。
 時折バスルームから聞こえてくる隼人の話し声に、適当に相槌を打つ。
「うん、それで?」
「それで、アーティチョークの蕾がいっぱいあってさぁ」
「蕾?」
 料理に使うアーティチョークは、隆生の知っている限りでは、花弁のつけねと花芯の部分だ。
「蕾も食べられるのかい?」
「うん、もちろんだよ、ケイパーみたいにさ……」
 ふと、しばらく声が聞こえないことに気づいた。
「隼人? 上がったの?」
 ディスプレイから顔を上げたが、部屋には誰もいない。
「隼人?」
 不審に思って、隆生はバスルームへと入った。強いむせ返るような甘い香りが、ぷんと鼻をつく。
「隼人?」
 シャワーカーテンを開くと、くらくらする程の甘い濃密な空気がバスルームに充満する。
 隼人が真っ赤なほっぺたをして目を瞑り、湯舟にぐったりと寄りかかっていた。
「隼人、湯あたりしたのかい?」
 濡れて額に落ちた髪をかきあげ、肩に手を置いて揺するが、瞼をぎゅっと閉じたままだ。
「うわっ、大変だ!」
 急いで服が濡れるのもかまわず、両脇に腕を差し込むと抱え上げた。バスタオルを掴んで身体をくるむと、抱いてベッドへ運ぶ。
「隼人、大丈夫かい?」
「うにゃー」
 隼人はぼんやりと眼を開けた。間近の隆生の顔に気づき、「りゅーせー」と呟く。
「どうしたんだい、隼人」
「わかんない……あの……香水みたいな奴……入れたら……なんか、ぼーッとしちゃって……」
 床に空の瓶が幾つも転がっていたのを、隆生は思い出した。
「あれ、全部入れたのかい?」
「うん……だって、いい香りだったから」
「ちょっと香りが強くて、酔っちゃったのかなあ?」
 隆生はくるんでいたタオルで、隼人の肌を擦ってやる。ふと、隼人の身体の変化に気づいた。
「……隼人?」
 隼人は身体を捩ると、ベッドの脇に膝まづいている隆生の首に腕を巻き付けた。
「熱いよ……俺、なんか……」
「隼人?」
 潤んだ眼で隼人は隆生の顔を仰ぐ。自分から首を伸ばして、唇を隆生のそれに重ねた。
「ん……んッ、隼人?」
 吸い付いてくる隼人の唇を引き離し、両手で頬を挟んだ。
「なんだよォ、隆生ー、キス、やなのかよォ」
 まるで酔っ払ったような口調で言うと、隼人は隆生のシャツのボタンを外し始めた。
「隆生ー、脱いでよー」
「ちょっと待ってくれ、隼人!」
「いやだ、待てないもん!」
 するりと隼人の片手が、隆生の胸元に忍び込んだ。
「隆生……ねぇ……」
 隼人はタオルを撥ね除けると、自分の身体を露にした。
「ほら……もう俺のココ……こんなだよ……」
 空いている片手を自分の下腹へと延ばす。力を持っているモノを握った。
「ねぇ、これ……見てよ」
「うわッ、隼人!」
 未だ曾て、酔っ払ってもこんな大胆なことは言わなかったので、隆生は真っ赤になった。
「隆生……したくないの?」
「そういうことじゃなくて……」
 いったいぜんたい、どうしたのだろう。必死で隆生は頭を巡らす。
 思いついたのは、昼に買い物をした店のことだった。
「恋人達の特別の物」
 そうマダムは言っていたっけ……。
 でも、それは今、自分のトランクの底に眠っている。隼人が風呂に入れたエッセンスとは別だ。
『もしかして……』
 考えられる唯一の理由は、「薬の相互作用」ということだった。
 隼人が偶然混ぜたため、何らかの力が生まれたのかも知れない。
「隆生、隆生」
 隼人は涙目になって、自分のモノを握る。
「ココ、早くゥ」
 今度は奥へと指を進め、自分で秘部へと差し込んだ。
「ここに、隆生の、入れて」
 一気に言うと突然ぽろぽろと涙を零し始めたので、隆生は焦って顔を寄せた。
「どうしたんだ、隼人! どこか具合悪いのかい?」
「違うよォ、隆生、俺のこと、嫌いになったんだ」
 拗ねた様子で隼人は俯せになると、枕に顔を埋めた。
 いきなりの言葉に、隆生は眼を白黒させてしまう。
「何、言うんだ、違うよ!」
「だって……したくないんだ、俺と……もういいもん、隆生なんか嫌いだッ」
 隼人はしゃくり上げながらも、腰を持ち上げると、秘部に入れた指を動かし始めた。
「ああッ、ここ、もう、熱くて死んじゃうよォ、隆生、隆生の意地悪ッ、大嫌いだッ」
「隼人、違うって!」
 隆生はベッドに乗ると、隼人の上に覆いかぶさって、激しく動かしている手を外させ
た。
 隼人の悲鳴が上げった。
「やッ、あそこ、入れてッ」
 隼人は身体の向きを変え、大きな眼で隆生を見上げる。唇を震わせて、
「隆生……お願い……」
と呟いた。
「隼人!」
 さすがに隆生も限界を越えた。
 何やら正気を失っているのに付け込むような気がしたが、こんな表情で見詰められ、懇願されては……。
 手早く服を脱ぎ始めた隆生に、隼人が歓喜の声を上げてむしゃぶりつく。
「早くッ、太いの、入れてッ」
 大胆発言を繰り返し、自分から大きく腰を掲げると、指でピンク色の花弁を開いた。
「ここ……に」
 太く固いモノが侵入してきたのを感じ、隼人は大声を上げる。
「ああっ、気持ちイイッ、隆生ッ」
「隼人!」
 細い身体を抱き締めると、ふんわりとあの甘い香りが肌から匂い立ち、隆生も頭の芯が痺れて来た。
 隼人の内部は今までになく熱く柔らかい。どこまでも深く入って行けそうで、隆生は力を込めた。
「もっと、深くッ」
 隼人は背中を反り返らせる。
「もっと、もっとッ」
 結合したまま、隆生は隼人の腰を持ち上げる。首にしがみつかせると、自分はベッド
にあぐらをかくように座った。
「しっかり、掴まっておいで」
 そして腹の間に挟まっている隼人自身を扱いてやる。隼人は子犬のようにクンクンと鼻を隆生の頬に擦り付けた。
「イイッ、もっと俺の××、擦ってッ」
 自分から恥ずかしい言葉を口にし、隼人は真っ赤になった。
「俺、なんかヘン……」
 隼人の口から初めて漏れた単語に、隆生は驚いた。しかし舌の回らない、あどけない口調で言われても、あんまりいやらしさは感じない。まるで子供が大人を困らせようと、
わざと言っているようで、隆生は微笑ましくなって隼人を抱き締めた。
「ううん、隼人の口から聞くと、可愛いよ」
 隼人はすっかり安心した顔になった。
「そーか? じゃーもっと言う。隆生の××、俺、大好き!」
 言いながら隼人は自分で動き出す。
「隆生の××、俺ん中で動いてるッ、ああッ、いいッ、出ちゃうッ」
 隼人は突然動きを止めた。
 隆生の握っているモノがピクリと震える。その瞬間、隆生は腰を突き上げ、自分を隼人の中へ思いっきりねじ込んだ。
「アアアッ、隆生ッ」
 隼人が激しく見悶えたので、熱い液は二人の腹に振り撒かれた。
「もっとッ、隆生ッ」
 隼人は上体をのけ反らせる。隆生の首を放し、そのままベッドに横たわると、結合部が露になった。より深く感じようと、隼人は自分から足を抱え込む。
「来て、隆生……うんと深く」
 くねくねと身体を捩り、大きな眼を半分閉じて、隆生を誘う。
「もっと強く……」
「隼人!」
 煽られて隆生は行為の激しさを増していった。
 隼人は何度か放つと、ぐったりと隆生の動きに身を委ねた。
 それでも隆生が離れようとすると、隼人は泣き声を上げてしがみつく。
「熱いよー、隆生、俺の身体、ヘンになっちゃったよー」
「大丈夫だよ、隼人、終わりにしようね? だってもう、出ないだろう?」
 隼人はいやいやとつながったまま腰を振る。
「いやだ……俺ん中にいて……ずっと……」
 隼人が眼を開けると、小鳥のさえずりが聞こえ、明るい光が窓から溢れている。
「あれ……?」
 ベッドに身体を起こすと、「隆生ー」と呼んでみた。
 バスルームから隆生が電動シェーバーを持ったまま、飛び出して来た。
「良かった、隼人! 眼、覚ましたんだ!」
「え? なんのこと?」
 隼人は脇へやってきた隆生をきょとんと見上げた。
「それよりさー、俺、昼寝しちゃったの? 今、何時? おなか、ペコペコだよー」
 隆生は唖然として、首にかけていたタオルで顔を拭くと、じっと隼人を見下ろした。
「ひょっとして隼人……何も覚えてない?」
「覚えるって、何を?」
「何をって……」
 何時間ベッドに入って愛し合ったと思っているのかと言いそうになって、隆生は焦って口を閉じた。
 まさかあんなに激しくセックスしたことを、覚えていないなんて……。
『確かにあの時、隼人は酔っ払っていたようなものだし……酔っ払ってした事を覚えていないって、有り得るな……』
 それにしても……隆生は隼人を見詰めたまま、固まった。
 隆生の困惑に気づかず、隼人は元気良くベッドから飛び出そうとしたが、「うわっ」と叫んで屈み込んだ。
「いてー、身体が痛いよー、どーしたんだろ」
 隆生は急いで隼人を抱き上げ、ベッドに腰掛けさせてやる。
「よっぽど疲れてたのかなー、俺」
 隼人は眉を顰め、首を傾げたが、すぐ目の前でひざまずいている隆生に笑いかける。
 痛みはもちろん、ハードなセックスのせいなのだが、そんなことはとても言えない。
隆生は「そうだね」とあいまいに頷く。
「隆生、おなか、空いたよ。夕めし、食いに行こうぜ?」
「隼人……」
 隆生は言いにくそうに続ける。
「あのね……もう朝なんだ。隼人は昨日のお昼っからずっと寝てたんだよ」
 一瞬隼人は眼を丸くしたが、今度は「そっかー」とにっこりした。
「おなか、空いてるはずだよな」
 言いながらまたゴソゴソと動き出し、「イテテ」と顔を顰めた。
「そっか、寝過ぎたから身体が痛いんだ」
『じゃなくって……』
 隆生は困り果てながらも、隼人に手を貸してやる。
「どうしたの、隆生? なに、変な顔、してんだよ?」
「何でもない、それより隼人、服を持って来てあげるよ」
「うん! 隆生って優しいな!」
 着替えを手伝ってもらうと、隼人は少し身体が軽くなったとみえ、元気良くバスルームへと歩いて行く。
「ねぇ、今日はどこ、行く?」
「そうだねぇ、どこがいいかな」
「まず、朝めしにしようよ! 俺、クロワッサンとカフェオレがいいな!」
 キャッキャッとはしゃぐ隼人に、隆生はやましさを感じていた。
「隼人……本当に昨日のこと、何も覚えていないのかい?」
「にゃにお?」
 歯ブラシをくわえ、隼人がバスルームから顔を出した。
「いや、いいんだ、なんでもない」
 自分から熱く求めてくれる隼人は嬉しいが、何も覚えていないのでは意味がない。
 はっきり言って、隼人の寝顔を見ながらマスタベーションしたようなものだ
『そうだよ、別に……』
 何もあんなに積極的でなくっても、隼人と過ごす夜はいつでも熱いのだ。
『それに……』
 ふと隆生は思い出す。
 あのマダムがくれたジェルはまだ使わずにしまってある。始めは効能を聞かされても、半信半疑だったのだが、昨日の様子では、
『結構いいかも知れない』
 使う量を加減すれば。そう、ちょっと積極的な隼人もなかなかいい……いや、とてもよかった。
『日本に帰ってから、試してみよう!』
「何だよー、隆生、なに、一人でニコニコしてんだよ?」
 いつのまにか隼人が戻っていて、怪訝な顔で隆生を見上げていた。
「何でもないよ」
 隆生はにっこりすると、ワードローブからジャケットを取り出す。
「じゃあ、行こうか、隼人」
「うんっ」
 隼人は元気良く隆生の腕に飛びついて、隆生の顔を仰ぎ、笑みを返した。
 二人の休日はまだまだ続くのだ……。

 

 

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