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「おい、お前は女生徒に声を掛けろよ」
笠井は隣で乗馬ジャケットに身を包み、しゃちこばって立っている大野に囁く。
階段教室の前のロビーは学生達ですし詰め状態だ。
笠井と大野は扉の近くを早くから確保していた。
「お前って、眼鏡顔が優しそうで、結構女に安心感を与えるんだよなー」
「笠井はでかくって、そうやって学ラン着てると、ちょっとビンビンの体育会系だからね」
大野は笑いながら答える。
「それより、来るぞ!
よそに後れを取るなよ、ダッシュしろ!」
階段教室の扉が開いて、新入生達がぞろぞろと出てくる。
一斉に声が上がった。
「バスケ部に入りませんか!」
「テニス部は女子大との合コンが多いよー」
負けじと笠井が大声を張り上げる。
「貴族のたしなみ、乗馬を体験しようぜ!」
隣で大野が「うわっ、似合わない」と感想を漏らす。
「いいから、お前はあの女子学生のグループに取り入れ!」
自分はこちらを興味深げに見た一人の男子学生に近寄る。
「ねえ、君、馬に乗ってみないか?
今、運動場に連れてきてるから」
「ええっ、馬を?」
「ああ、こっちへ来いよ」
笠井はその生徒の腕を捕らえ、グラウンドへと出る。
ついでに、「君、結構がっしりしてるよね」と言った。
そして「相撲部はどう?」と付け足す。
「馬術部と兼部出来るよ。
俺もそうしてるんだ」
風のある日で、桜の花びらが辺りを舞っている。
「こっちだ、笠井」
赤木が呼び、笠井は学生を連れて傍へ寄った。
「牧之瀬さんは?」
「ここだよ」と澄んだ声が答え、笠井は振り返る。
あの日と同じ、桜の花びらの舞う中、黒いジャケットを着た牧之瀬が立っていた。
手に持った手綱の先には、真っ白な馬が繋がれている。
美しさに息を呑み、笠井はしばし立ち竦む。
「どうしたの?」
牧之瀬は近づき、小首を傾げる。
「なんでもないです!」
我に返って笠井は明るく答えた。
「それより、馬に乗りたいって新人、連れてきました!」
おーいと呼ぶ声が聞こえ、振り返ると、大野が女子学生を三人、引きつれてやって来るのだった。
「おおっ、大漁だ!」
嬉しそうに赤木が呟く。
笠井はシルバーアローの手綱に手を伸ばし、元気な声を出す。
「牧之瀬さん、騎乗してください。
いいところを見せて、新人をゲットしましょう!」
「そうだね」
牧之瀬は柔らかく微笑んだ。
その笑顔に魅入られながら手綱を受け取り、笠井は時を振り返る。
J医大に入学してからの一年間は本当に早く過ぎ、まるで馬に乗って駆け抜けたかのようだった……。
牧之瀬に恋したのも、あの最初の日だ。
桜の花びらが舞う中、出会った瞬間に、多分恋に落ちたのだろう。
そして一年間追い続けたのだ。
今日からは新しい一年が始まる。
そう、恋にも学業にも馬にも全力を注ごうと笠井は思いながら、馬上の牧之瀬ににっこりと笑いかけた。
END
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