AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
 

11

六本木の街は騒然としている。あちこちに警官が立ち、上空をヘリが旋回する。
第3機動隊(サンキ)のバンが隊列を作って停車し、強化プラスチックの盾と防弾チョッキで身を固めた隊員たちが中で待機している。
屋根の回転する赤色灯が緊迫感を盛り上げる。
景山の言った通り、あれからしばらくたった夜、警視庁と六本木署・広尾署・御成門署合同の一斉が行なわれていた。
ショカツや本店の刑事たちが現場への踏み込み(打ち込み)の命を待ち、ビルを取り囲んでいる。
こういった大がかりな事件の場合は、もちろんマル暴が中心ではあるけれど、ショカツからは全署員が駆り出される。

僕たち強行犯係も当然銃器携帯で現場に臨んでいた。
目的は六本木をシノギとする○龍会幹部の事務所だ。
強制捜査のあげく、銃刀法違反で下っ端を数名引っ張る、という脚本ができている。
本気で暴力団を潰そうと思ったらこんなことはしない。
わざわざ「これからやるぞ」と大人数を繰り出し、準備を整える暇を与え、あらかじめ決められた捜査をしても、塀の中と外の構成員が入れ替わるだけだ。
それでも警察という組織は上から命令されればそれをやらねばならない……。
複雑な思いを抱え、僕はニューナンブの重みを脇腹に感じながら由岐中さんと共に立っていた。
少し離れた背後にはパトカーが何台か控えている。
その中の一台から鋭い視線が投げられているのを僕は感じていた。
「後ろに気をつけろよ」
由岐中さんが僕の肩を抱き寄せ、囁く。
「あいつだったら流れ弾を装ってお前を狙いかねん」
「まさか!」
「いや、それぐらい警戒したほうがいいってことだ」
由岐中さんが言うのだから本当だろう。
今さらながらに景山の不気味さを僕は実感する。
うぉー、という獣じみた怒号が上がった。
ちゃちな日本刀を振り回している男が見える。
パンチパーマの男がトカレフを構えている。
「突入!」
あちこちで催涙弾の白い煙がたなびく……。
これってどうよ、と僕は思う……。
マネーロンダリングに関わった大坪社長。
そもそも脱税をして裏金を溜めようとした政治家たち。
取引に応じ、世間の目をくらますための芝居を打ったキャリア。
由岐中さんとビルに向かって走りながらしかし僕は永瀬巡査長の顔を思い出していた。
「一番大事なものを忘れなければ、道に迷うことはない」
そう言われた……。
卒園文集で僕は「わるいやつをやっつけたい」と書いた。
そのために刑事になりたいと。
それを忘れずに行こう、この道を。
迷いそうになるときは、永瀬さんとそして由岐中さんの顔を思い出せば……。
前を走っている由岐中さんに坊主頭の男がバールで殴りかかる。
僕は後ろから男の手首を掴んでねじ伏せる。
「助かったよ、ダイスケ!」
もう一人を投げ飛ばして由岐中さんは白い歯をにっと見せた。
由岐中さん、あなたが好きだ。
でもそれは男女間の恋愛感情とは全く違う。
この人なら命を預けられる、という信頼?
同じものに命をかけるという連帯感? 
違う。
それよりもっと熱い何かだ。
多分、魂の相棒なんだと思う。
それは男女間の恋ではないけれど……。
男同士だったらそれでもいいんじゃないかと思いながら、僕は由岐中さんの男らしい顔を見つめていた。
どうせ僕は男同士の恋の初心者なんだから、ここから始めてもいいのだ。
このショカツで刑事としての人生を始めるように。
 
 
六本木署の道場で作戦終了を祝う簡単な乾杯が行われた。
マル暴の人たちはこれからがたいへんだ。
だが僕たちはお役ご免になって、深夜、勤務から解放された。
このまま仮眠室で夜を明かす人もいて、まだ刑事部屋は騒然としている。
寮の部屋に帰ってもよかったが、なんとなく由岐中さんとまだ一緒にいたかった。
僕は「一杯やりませんか」と由岐中さんを誘ってみた。
「そうだな……だがその前に風呂に入りたいな」
僕もそれには賛成した。確かに重たい防弾チョッキを着て走り回ったので、汗まみれだ。
それに加え、催涙ガスの匂いも髪や服に染みついている。
「おれのマンションに来るか?」
僕はちょっと考えた。
僕が女だったら、コクられた相手のマンションに深夜ついて行くのはどうかと思うが……。
でも僕は男だし、さっき由岐中さんが本当に好きだと確信したばかりだ。
まあ、何かあるとしても、これは流行の「自己責任」かもしれないな……って、あるのを期待してるわけじゃないけど。
僕が即答しないので、由岐中さんは慌てて「嫌ならいいんだ」と僕の顔を覗き込む。
「いいえ、行きます」
僕はきっぱり言うと由岐中さんを見つめた。
それに由岐中さんのところの風呂は豪華マンションだけあってジャグジーつきだ。
温泉で打たせ湯は使ったことがあるが、ジャグジーは未体験だ。
何度か行ったラブホにもなかったのだ。
大作戦が終ったのだから、ちょっとリラックスしたくなっていて、
「じゃあ、ジャグジー使っていいですか?」
由岐中さんに訊いてみる。
「お前……」
首を振り振り、由岐中さんは歩き出す。
「ダイスケはジャグジーに入りたくておれんとこへ来るのか?」
「あっ、それだけじゃないです」
僕たちはわいわいと話をしながらマンションへと向かった。
浴室は中庭に面していて、窓から丸い照明灯が目隠しに植えられた木々を照らしているのが見える。
浴槽は大人二人が入れるほど大きいが、由岐中さんはいつものように一人ずつ入ることを提案した。
コクったあとだからだろうか? 
いや、それって普通か……。
ちょっと考え過ぎてる今夜の僕。

由岐中さんと入れ替わると僕は大きなお風呂を一人占めにする。
湯船の縁に寄りかかり、身体を思いっきり伸ばした。
ジャグジーのスィッチを入れると、壁面から泡が出てくる。
強張った筋肉がほぐれ、とても気持ちがいい。
捕り物のあとは気分が高揚している。
僕は色々なことを考えた。
大部分は由岐中さんのことだった。
由岐中さんのことが好きだ、そこまではいい。
だがこれからどうすればいいのだろう……。
僕の気持ちを伝えたほうがいいのだろうか。そのあとは?
大人同士なんだからなあ……。
精神的な愛なら単なる友情だ。
それとは違う、もっと深く熱いもの。
だとしたら当然、その先があるのだろう。
由岐中さんのほうはホモなんだからもちろんその先も……。
つまり「あっち」も。
思った瞬間、熱い湯に入っているのに、背筋に悪寒が走った。
見知らぬ男たちに犯された夜。
はっきり言って、男ではなくなってしまったように感じた。
生まれてからあんな屈辱的だったことはなかった。
でも相手が由岐中さんだったらどうなんだろう……やっぱり屈辱と感じるんだろうか……。
目の前に突きつけられたおぞましいものを思い出す。
ゴムを被ってたけど、ごつごつして、ドクドク脈打っていて……。
吐き気を催し、僕は眼を瞑った。
あんなもの、絶対入れられたくない!
でも……由岐中さんのだったらどうなんだろう……。
温泉で見た由岐中さんのはすっごくでっかかった……。
あれは多分、勃っちゃってたんだろうな。
必死で隠してたからちらりとしか見えなかったけど、多分そうだ。
けど、全然気持ち悪くなかった。
由岐中さんのを今見たら、やっぱ吐きそうになるだろうか……。
「いや、違う……」
絶対ならない。
それにあそこに男のものをいれるなんて金輪際いやだと思ったけど……。
由岐中さんがそうしたいなら全然OKだ。
僕はブクブクと泡が立っている湯面に顔を沈めた。
頭の中が白くなるまでこらえ、飛沫を上げて息をつく。
「ようし!」
僕は大声を出した。
やってやろうじゃないか。
もしも由岐中さんがそれを望むなら。
あのときは痛みもひどかったけれど、由岐中さんなら我慢できる。
僕のほうはスタンバれないと思うけど……まあ、それは勘弁してもらおう。
「そうか……」
僕がムラムラこなくても、相手がムラムラしてれば可能なのだ。
一方通行だけど。
「だから由岐中さんは『天然』って言ったのか……」
でもやっぱり、「それでもいい」と思う相手じゃないと僕はできない。
由岐中さんだったらいい。
決心して僕は浴槽の縁に頭を乗せ、天井を見上げる。
次の悩みは「どう切り出そうか」だ。
おれは慎ましいんだ」と言っていたっけ。
誘われるまでは我慢する、とも。
ということは、僕から言わなくちゃならないのだ。
「それは……生涯初めてだなあ……」
刑事になるため脇目も振らずに励んできた僕は、遊ぶ暇なんてなかった。
ソープへ行ったのは僅か一回。
警察学校を卒業したとき、同期の仲間と新宿に繰り出して初体験した。
「まあ、おまわりさんの卵なの、捕まったときは宜しくね」
そう言われてサービスされた。
あとは先輩の婦警さんと二回。
誘われ、ラブホテルについていくと押し倒されて乗っかられた。
それ以外は独身寮の部屋でもっぱらオナニーだ。
自分から誘ったことはない……。
「ムラムラ来てるんなら押し倒しちゃえばいいんだけどな……」
スタンバれないのだからどうにもならない……。
そりゃ、一度は由岐中さんの手の中に出してしまったけれど、
「あの夜は……ウィスキーと薬でラリってたからな……」
素面で男に扱かれてもきっと勃たないと思う、と僕は自分の股間を見下ろした。
そこは「やっぱり、無理でーす」と言っていた。
「ま、いっか……」
由岐中さんには「一方通行で結構です」と言えばいい。
由岐中さんが満足してくれれば、僕はそれだけで嬉しいのだ。
僕は気合を入れて浴槽から飛び出した。
素っ裸の腰にタオルを巻くと、ほとんどリングに向かうボクサーの心境でリビングへと歩いていく。
由岐中さんは何も知らずにバスローブ姿で、缶ビールを飲んでいる。
僕の姿を認め、「おう、先にやってる」と再び缶に口をつけた。
「お前も飲め」
傍まで行くと僕は「先輩、自分とセックスしませんか」と言った。
「な……っ」
由岐中さんは口の中のビールを吹き出す。
唖然として僕を見上げた。
「いきなりなんだ!」
「その、自分は先輩が好きみたいです。
でもムラムラはこないんで先輩を抱くことはできません。
けど、先輩が自分を抱くのなら問題ないと思います」
由岐中さんは缶をテーブルに置くと、首を左右に振った。
「問題ない……って、あのなあ……そういうこと、軽軽しく言われても困る」
心外です、と僕は睨んだ。
「軽く言ってるわけじゃありません、十分に考えての発言です」
由岐中さんは溜息をつくと立ち上がる。
僕を見下ろし、真面目な表情になった。
「ダイスケ、景山に辱められたとき、『軽蔑しないでください』とおれに言ったよな」
「はあ……」
そう言った気がする。
「つまり……」
由岐中さんは少し苦しげな顔になった。
「あそこに男のペニスを受け入れるのはお前にとっては軽蔑に値する、ってことなんだろう?
 いいのか、おれとセックスするってのはそういう意味なんだぞ?」
由岐中さんは僕の肩に手を置いた。
「特にその……あんなひどい目に遭わされて、ホモが大嫌いになるってこともあるんだ。
ハルが言ってた、ホモフォビアって奴だ。
おれは男だぞ、いいのか、男同士でも。
しかもお前はおれのせいで酷い目に遭ったんだ。
おれのことを嫌ったり憎んだりしないのか?」
犯した連中を憎んでいる。それは確かだ。
景山の奴も許せない。
一生許さない、僕のプライドにかけて。
けど、由岐中さんを嫌うなんてことはあり得ない。
僕は真っ直ぐに見返す。
「うんとそのことは考えました。
でも先輩とならいいです」
「しょうがないな、ダイスケ、どうなっても知らないぞ」
肩に置かれた手に力がこもった。
一瞬、怖い、と思ったがもうあとには引けない。
精一杯元気な声で「大丈夫です」と言った。
「先輩なら痛くても我慢できますから」
「ダイスケ……お前は天然だな……」
由岐中さんは身体を屈め、僕の肩を引き寄せるとそこに顎を乗せた。
「そんな健気なことを言ったら、本当にやっちまうぞ、おれだってそろそろ限界なんだからな」
低い声で囁かれ、僕は「望むところです」と答える。
「いいんだな」
僕の手首を?むと、由岐中さんはベッドルームへと歩いていく。
ベッドに押し倒され、覚悟は決めていたものの、僕は思わず眼を瞑った。
すると熱い胸に抱き込められる。
「いいんだな」
もう一度尋ねられ、僕は黙って首を縦に振る。
「眼を開けてくれ、どうも処女を無理やりやろうとしてるみたいでかなわん」
困りきった由岐中さんの声に僕は吹き出した。
眼を開けると由岐中さんはほっと息を吐き、バスローブをはだける。
僕のタオルに手をかけた。
「確かに……スタンバってないな」
「すみません……」
謝ることはない、と由岐中さんは唸る。
僕の顎をとらえ、指で唇に触れた。
「じゃあ、キスしてみるか。
この前はキスで勃っちまったからな」
あれは、と僕は反論した。
「ラリってたからです!」
「はいはい」
ちょっと馬鹿にした態度にむっと来たが、確かに由岐中さんのキスは上手い。
柔らかくて熱いものが僕の口の中を這い回る。
奥まで入れられ、苦しくなったが構わずに僕も舌を動かし、応える。
普通、男に舌を入れられたら、ぞっとするだろう。
でも由岐中さんのは平気だ。
というか、気持ちいい……それは僕が由岐中さんを好きだからなんだ……。
やがて熱が深いところから昇ってきたのを感じ、僕は口を離して自分の下腹を見た。
由岐中さんにも判ったようで、笑いながら、「おい、スタンバったようだな」と僕のモノへと手を伸ばす。
だが触れる前に「やめとこう」と引っ込めた。
「この前は触ったらすぐ出ちまったからな。
もったいない」
心外です、と僕は口を尖らせた。
「あれはラリってたからです!
 普段はそんな早くありません」
「判った、判った」
言いながら由岐中さんはバスローブを脱ぎ捨てる。
僕の手を下へと導いた。
「これをお前のあそこに入れるからな」
触れたものの太さと固さに僕は緊張した。
うんとうなずき、痛みに備えてぐっとシーツを握り締める。
その様を見て由岐中さんが「安心しろ」と呼びかけた。
「痛くはしない。
これを使うからな」
 ごそごそとサイドテーブルを探り、引き出しからラミネートチューブを取り出した。
「これは?」
「その、こういう時に使うゼリーだ」
ずいぶん用意がいい、と僕は首を捻る。
「ひょっとして僕が先輩を誘うの、予想してたんですか?」
 由岐中さんはキャップを開けながら渋い顔をした。
「訊くなよ、訊くと答えなくちゃならないだろう?」
「なんか、まずいんですか?」
「うう……」
唸ったが由岐中さんは「実は……いつか必ずお前を落としてやろうと決心してたんだ」と白状した。
「それで買っておいたのさ」
「ええっ、いつからです?」
「お前が初めて泊まった夜からだ」
ああ、あの、と僕は思いだした。
「その、パンツいっちょうで先輩の前に……」
まあな、と由岐中さんはちょっとへらへらする。
「あのヌードでまいってな……」
そうか、それでタオル姿にあんなに驚いたのか。
知らなかった……。
「あのときから僕のことを……」
けど、ひどく嬉しそうにラミネートチューブからゼリーを搾り出している由岐中さんは妙に可愛かった。
まあ、いいか……どっちにしろやるつもりだったんだから。
やがて後ろにゼリーが塗られた。
すぐに指を入れず、由岐中さんはあの部分をマッサージする。
むず痒さに僕は身体を捩った。
「くすぐったい……」
「我慢しろ、痛いよりいいだろう?」
「そ、そうですけど……」
なんだかとてつもなく変な感じだ……だいたい、あそこを触ることなんてあんまりないのだから。
それを他人が指で弄るなんて……。
ゼリーが溶け、指が動くたびにグチュグチュと言う音がする。
痒いだけでなく、あそこが熱くなってきて僕は焦った。
やがてツプリと指の先端が入ってくる。
予想していた痛みはなかった。
僕の表情をうかがいながら由岐中さんは指を進めていく。
指は内部を探っている。
「そうか、こっちの方向だな」
「はあ?」
「いや、まだよく開いてないからな……傷つけないようにしないとな」
初心者の僕には不明だが、まあ、任せておけばいいだろう。
僕は指を入れやすいように膝を立てた。
指は深くまで入ると今度は中で動き出す。
深く、浅く、また深く……。
それだけでなく、こねたりかき回したりと自在に動く。
この前、乱暴されたときはひたすら痛かったが、今はなんだか気持ちがいい……。
「広がってきたぞ」
由岐中さんが言い、指をもう一本差し込んできた。
「あ……」
指の動きはもっと複雑になった。
下腹全体にむず痒さが広がり、僕は喘いで由岐中さんの手首を掴んだ。
「も、もうやめてください」
「バカ、ここでやめられるか」
荒い息と共に由岐中さんは激しく指を動かす。
「ああっ、そ……」
僕が顔をしかめると、指の動きが止まった。
「どうした、痛いのか」
「じゃなくて……変な感じです」
「なんだ、感じてるんじゃないか」
 ええっ、と由岐中さんを見上げる。
「そうなんですか?」
答えずに由岐中さんは僕のモノを指差した。
それはさっきより嵩(かさ)を増し、先端から液を滲ませている。
「ホントだ……」
由岐中さんは笑いながら僕のモノを空いている片手で?んだ。
「先に一回、達かせてやるよ。
それからのほうが緊張が抜けて入れやすいんだ」
今度も僕は逆らわずに由岐中さんに決定権を委ねた。
何しろ向こうは先輩なのだから。
由岐中さんは前を扱き、同時に内部の指を動かす。
今まで感じたことのない刺激に僕は喘いだ。
気持ちのいいポイントを擦られると、僕のペニスがビクビクするのが判る。
そのリズムでサキッポを扱かれるとめちゃくちゃいい……。自分でするよりずっと。
「せ、先輩、先輩は上手……です」
由岐中さんは笑って僕の唇にキスをする。
「どうだ、いいか、ダイスケ」
「い、いいです……こんなのは初めて……だ……」
「だろうな」
前から出る液と溶けたゼリーのせいで、グチュグチュいう音はどんどん大きくなる。
いつの間にか僕は足を大きく広げて投げ出し、由岐中さんの動きにあわせて腰を捩っていた。
やがて熱い塊が狭い道を昇ってくる。
「せ、んぱいっ」
僕は背を弓なりに反らして叫んだ。
「も、で、出ますっ」
「遠慮しないで出せ」
由岐中さんは荒々しく前を扱く。
あっさりと僕はその言葉に従った。
飛沫を上げ、まだがくがくと震えている僕を由岐中さんは折りたたむ。
「入れるぞ」
僕の答えを待たず、内部の指が引き抜かれる。
直後、熱く太いモノが侵入してきた。
「は……ううっ」
指よりもかなり太く、やはりきつい。
犯されたときの恐怖で本能的に筋肉が収縮し、拒もうとする。
だが到達直後のため、身体に力が入らない。
狭い部分に首尾よく太いモノはもぐりこむ。
それでもまだ文字通り先が長かった……。
僕は必死で腹式呼吸を繰り返す。
「ま、まだですか……」
「ううむ、まだ三分の一ぐらいだな」
ひーっとなったがもうここまで来ればどうしようもない。
「うう、まさに毒を食らわばそれまで、ですね……」
「バカ、協力しろ」
悪戦苦闘の末、なんとか僕は最後まで受け入れることができた。
苦しい。
指より何倍も太いそれは身体の真ん中を貫き、内側から僕を圧迫している……。
痛くはないけれど、異物感で吐き気がする。
息を吐いても吸っても先っぽが口から出そうだ……。
でも犯されたときに感じた吐き気とは違う。
あのときはおぞましさと惨めさからの吐き気で……。
中に入ってるのが由岐中さんのなら……我慢できる……。
っていうか、なんだか嬉しい……。
由岐中さんの逞しい身体にぴったり密着していると、今までにない感情が湧き上がってくる。
「なんか……変です……自分はちょっと感動してます」
由岐中さんの首にしがみついて囁いた。
男同士で繋がってそんないいものかと思っていたが……。
「単なるセックスだけじゃなくて、なんというか……本物の相棒(バディ)になった気がします」
「ダイスケ……」
由岐中さんの大きな掌が僕の髪をくしゃくしゃにする。
「お前は……天然だなあ、可愛いよ」
由岐中さんは僕の腰を抱えると動き出した。
最初は腸が破れそうで怖かったが、だんだん慣れてくる。
あそこが広がったのか、圧迫感もなくなった。
むず痒いところをこねられると、さっきの指より断然気持ちいい。
なんと言っても指よりうんと太いく、その上、奥まで届く……。なんだかうんと奥までむず痒くなっていて……もっと、ああ、奥まで……入れて強く掻き回して……由岐中さん……。
「ああ、そこ……」
固いものの先端は痒いところをこねたかと思うと退いてしまい、僕は失望の溜め息をもらす。
背を反らし、股を精一杯開いて由岐中さんを呑み込む。もっと深くまで入れて欲しくて……。
こんなところを男のモノでかき回されて、こんなに感じるとは思わなかった……。
僕のペニスはとっくに大きくなっていて……。
「ああっ、はあっ」
喘ぐと由岐中さんがその息を掬う。
「いいか?」
「は、はい……ば、ばっちりですっ、せ、先輩は?」
「おれもすごくいい」
僕は嬉しくなった。
由岐中さんによくなってもらいたい。
「せ、先輩、自分のでよくなって下さい」
由岐中さんは「可愛いことを言うな、ダイスケ」と笑う。
「お前もよくしてやるよ」
由岐中さんの動きが激しくなる。
擦られる内部はもう熱くなって、溶けそうだ……。
むず痒さはいつの間にか違う感覚にすり替わっている。こねられると奥から何かがペニスの先端へとせり上がってくる。もう先っぽから出てしまいそうだ……。
「いいか、ダイスケ? もっとか?」
答える余裕がなくなっていく。
「ああっ、いいっ、いいっ」
僕は知らない間に叫んでいた。
 
 
由岐中さんが二回戦を終えるころには、僕はへろへろになっていた。
掠れ声で「少し休ませて……」と呻く。
「ダイスケ、大丈夫か」
由岐中さんは僕のへばり様に気がつき、慌ててミネラルウォーターを持ってくる。
喉を潤し、なんとか声が出るようになった。
由岐中さんはバスローブに僕をくるみ、自分は裸のまま隣に身体を横たえる。
僕を胸に抱き寄せ、
「ちょっと苛めすぎたか?」
と顔を覗き込んだ。
「いいえ、苛めただなんて。すごくよかったです」
「ダイスケ……」
僕はすっかり気分がよくなり、続ける。
「こんなにいいなんて、知りませんでしたよ!」
「あのなあ……」
由岐中さんは呆れ顔になって僕の髪をクシャクシャと乱す。
「普通はそんなに最初からよくないんだぞ。
おれが特別巧いんだ」
へえ、と僕は考えた。
「そうなのか……だから景山は先輩に執着するんですか?」
「ううむ……」
由岐中さんは答えず、僕の唇を奪う。
長いキスが終わると、僕を胸にぎゅっと抱いた。
僕は熱い胸に頬を寄せる。
「先輩、自分はあれから紗耶香さんに会いました」
「なんだって?」
「ほら、この前の非番の日……」
僕は紗緒里に「バレーの発表会を見に来て」と請われていた。
「芝公園の近くのホールで、紗緒里ちゃんと紗耶香さん、それから紗耶香さんの旦那さんにも会ったんですよ」
紗耶香は「紗緒里は地元の小学校へ入れることにしました」と僕に告げた。
「でも週に一回はバレエの練習に来ますから、また是非遊びにきてね」
紗耶香の夫・明夫も今は紗耶香から全てを知らされていて、僕に感謝してくれた。
僕は紗耶香との会話を由岐中さんに語った。
「明夫さんはとっても優しそうで……紗耶香さんを熱愛するあまりの浮気調査だったみたいですよ?」
ううむ、と由岐中さんは唸った。
「紗耶香は優しそうな男がタイプなんだよな、ダイスケ、お前みたいな。
宇津木明夫も優男だろう?」
「ええっ、そうかなあ?」
由岐中さんは僕の顎に指をかけ、上向かせる。
「うん、絶対お前はタイプだよ。だいたいな……」
由岐中さんは景山に紗耶香と結婚しろ、といわれたときのことを話す。
「おれは偽装結婚なんてするつもりはなかったし、紗耶香に全くその気がなかったんで流れたけどな」
「でもなぜ景山は先輩がゲイと知っていながら、紗耶香さんを紹介したんです?」
「そこがあいつの悪賢いところ、というか……多分、おれを自分に縛り付けるためと、それから元刑事局長のおれの伯父と親戚になるため、かな……おれとの縁組が巧く行かないと判ると、すぐに別の縁談を……」
そこまで言うと、由岐中さんは黙り込んだ。
眉間に深い皺を寄せ、天井を睨む。
しばらく考え込んでいたが、ペットボトルに手を伸ばす。
ベッドから上半身を起こし、口をつけて飲み干す。
「ダイスケ……もう一度おれは景山に会う」
「ええっ?」
「どうしてもあいつの口から聞きたいことがあるんだ。
お前は会いたくなければ来なくていい」
まだ裏に何かあると由岐中さんは考えているのだろう。
「自分は先輩の相棒ですから、どこにでもついていきます」
そう言うと、由岐中さんはにっと白い歯を見せる。
僕に覆い被さると「それじゃあ、第三回戦、行くか」と囁いた。
「ええっ、もうですか」
 僕の泣き声に構わず、由岐中さんはすぐに体勢を作る。
「これぐらいでネを上げてるようじゃ、体力不足でいい刑事には成れないぞ」
「いい刑事」! その一言には弱い……。
「判りました、頑張ります!」
僕は大声で答えた。
 
 
深夜のカンファランスルームは人影がなかった。
弧を描いたガラス窓の外には相変わらず宝石をちりばめたような東京の夜景が広がる。
マルチビジョンにはなぜか今夜は昭和のニュース映像が映し出されている。
六十年安保、浅間山荘事件、ダッカ事件……。
「あいつのリクエストだな、これは。嫌味な奴だ」
由岐中さんは呆れ声で言う。
扉が軋んで、演壇の奥から人影が現れた。
黒いスーツの男は階段をゆっくり上がってくる。
「忙しいのに呼び出すとは……ユキ、何の用だ」
景山は由岐中さんを見上げる。
「どうしても知りたいことがあってな」
由岐中さんは腕を組むと景山を睨んだ。
「紗耶香に宇津木明夫を紹介したのは、確か鈴木国之だったよな。
鈴木国之は警察庁OB、いわばあんたの上司だ」
「だから?」
景山は眼鏡を取ると、ゆっくりスーツのポケットに挿す。
「あんたは根本的に冷たい男だ、目的のためなら身内でも利用する。
紗耶香とおれを結婚させようとしたのもそうだった」
景山はクスクス笑い出した。
「あれが巧く行けばなあ……ユキ、君は一生私から離れなかったのに」
「おれが駄目となるとすぐに鈴木国之に持ち込んで縁談をまとめたんだろう?
 今回のことはすべて景山、あんたが仕組んだことなのじゃないか?」
「どうしてそこで飛躍する?」
景山はじっと由岐中さんを見ている。
「大坪政彦が政治家の裏金造りに手を貸すようになったのも、鈴木国之を介してだそうじゃないか」
大坪邸を辞するとき、紗耶香がそう言っていたことを僕は思いだした。
由岐中さんは厳しい声で続ける。
「景山、あんたは今度の件を極秘に処理したことで、複数の政治家に恩を売ったことになるな」
だが彼らは暴力団との取引に応じたという事実が残った。
「表ざたになれば、政治家にとっては命取りになる。
恩を売っただけでなく、もう一歩進んで奴らの首の縄を握ったわけだ」
景山は大げさに肩をすくめた。
「もともと紗耶香や大坪政彦の失態だ、私の身内が原因なのだから、そのことで彼らを窮地に陥れるわけはないだろう。
それを表ざたにしたら、大坪の会社は信用を失墜し、一気に潰れてしまうよ。取引をした私だって、一蓮托生だ」
「それが奴らを信用させる巧い言い逃れだって言うんだ。
たまたま、紗耶香がベンツを借りた日に、そしてたまたま塾へ送っていったとき、たまたまパソコンを盗られ、それがたまたま○龍会の手に渡った、ってか?
 誰がそんな偶然を信じるか」
「そうかな、世の中には天の采配というものがあるんじゃないか」
由岐中さんが拳を握りしめたので、僕は思わずそばに寄った。
だが由岐中さんは「安心しろ」と眼で合図する。
「あんたに『天』なんて言われたくないな。
ちょうどあの日に紗耶香が父親のベンツを借りるということを、あんたなら知る立場にあったろう」
由岐中さんは表情を緩めずに続ける。
「車上荒らしを命じたのはあんたなんじゃないか」
「そんな回りくどいことをしなくても、私なら直接大坪の家からデータを持ち出せる。
政治家の弱みを握りたければとっくにそうしているよ」
常識的にはその通りだ。
だが景山は常識のはるかに上を行く頭脳を持っている、と由岐中さんは思っていたのだった。
「脅迫なんて素人のやるようなことを景山、あんたがするわけないだろう。
警察官僚としてはまだピラミッドの下のほうにいるあんたは、そこまでの違法行為を堂々とできる立場にはいない」
それに、と由岐中さんは続ける。
「あんたが持ち出せば、出所はすぐわかる。
大坪も紗耶香も、紗耶香の夫も立場はなくなる。
一度しか切れないカードにするには惜しい、そういうことだろう」
全てを自分のカードとして利用する。
身内の愛情も。
そして恋人も。
その冷たさに気がついたとき、由岐中さんは……。
「黒幕は最初、鈴木国之かと思ったが……鈴木を介して紗耶香を宇津木明夫に紹介したときから、あんたは今度のことを企んでいたんじゃないか?」
確か、と由岐中さんは景山から視線を外す。
マルチビジョンには今度は成田闘争の映像が流れていた。
「鈴木国之は憲法改正と有事立法の急先鋒だったな……景山、あんたの考えと合ってるな。
今回のことはどっちの発案なんだ?」
「考えすぎだ」
だが景山はひどく嬉しそうだった。
「ユキ、君は頭がいい。
出身大学のわりに、ね」
映像は今度は9・11に変わった。音もなくツィンタワーが崩れていく。
「今回、恩を売ったのは何人だ?
 何票、手に入れた?
 あんたが理想とする、個人の人権を著しく狭める戒厳令(マーシャルロウ)が国会を通る日が近々、来るのではないのか?」
景山はゆっくりと眼鏡をまた鼻に乗せる。
肯定も否定もしなかった。
きびすを返すと階段を降りていく。
シューッと溜め息を漏らして扉が閉まり、僕たちは二人、マルチビジョンの消えた闇に残された。
 
 
外へ出ると、ビル風が激しい勢いで吹いていた。
眠らぬ街には人が溢れ、高層ビルの窓からは光が流れ出ている。
スーツ姿のビジネスマンに混じって、どうみてもロウティーンといった若者たちも多い。
すでに終電は出た時刻だ。
始発を待つ間、この街のどこで過ごすのだろうか……。
中年のオッサンがルーズソックスの少女二人組に歩み寄るのを見て、僕たちは足を止めた。
「おい!」
由岐中さんの呼びかけにスーツ姿の中年男はむっとして振り返る。
「君たち、うちはどこだ」
「なによぉ」
言い返す少女に由岐中さんは警察手帳を見せる。
「タクシーを拾ってやるからすぐ帰るんだ、いいな」
中年男はいつの間にか消えていた。
「これからこの国はどこへ行くんだろうなあ……」
ハザードを点滅させながらスピードを上げるタクシーを見送って、由岐中さんは溜め息をついた。
「厳しく取り締まればいいというものじゃないが……そういった声が出るのも確かに理解できるけどね。
法改正はどこまで突っ走るのかな……」
「大丈夫ですよ、そうじゃない人はどこにだっていますから」
僕は自信を持って答える。
世話になった永瀬さん夫婦みたいな人は、きっとたくさんいるはずだ。
熱いハートをちゃんと持った人は。
「行き過ぎた法改正だって、僕たちは選挙でノーと言えばいいんですから」
ううむ、と由岐中さんは首を傾げる。
「先輩も言ったじゃないですか。
自分らは捨て石でいいって。
そして地面を這って色んなものを探すって。きっといいものが沢山見つかりますよ」
景山みたいなキャリアや官僚は頭がいいだろうけど、ハートがない。
「石ころをバカにするなってことですよ。自分、今まで選挙を棄権したことがないのが自慢です」
選挙権が得られてからは、警官は勤務が不規則だから必ず不在者投票をしていた。
「ええっ、おれは結構棄権したことがある」
「駄目ですよ、先輩!」
僕は真面目に抗議する。
「きちんとイエス・ノーを言わなきゃ!」
「お前って熱血だなあ」
ガシガシと頭を掻くと、由岐中さんは僕の傍に寄った。
大きな掌で僕の髪をくしゃくしゃに乱す。
「似た者同士ですかね」
「そうかも知れないな……」
だから好きになったんだ、と由岐中さんは顔を寄せて囁いた。
 
 
並んでマンションへと戻る間、色々なことを僕は考えていた。
「どうした、ダイスケ、黙ったりして」
先を歩いていた由岐中さんが足を止め、振り返る。
「いえ……この一ヵ月の間に色々学んだな、と」
いつの間にか、心に浮かんだある思いのせいで僕の歩みは遅くなっていた。
「そうだな」
僕が追いつくと、由岐中さんは並んで歩き出す。
「もうじき実務研修も終わりですね……」
「そうだな」
そうなると、六本木署を去らねばならない……。
由岐中さんの傍も……。
また黙ってしまった僕の肩に由岐中さんは手を掛ける。
「まあ、遠距離恋愛もいいんじゃないか?」
それは、と僕は由岐中さんの笑顔を見上げた。
「自分は先輩とこれからも……」
近づいてくる精悍な顔に僕は目が釘付けになる。
「何も言わなくていい。
眼を瞑れ」
熱い唇が押し当てられる。
言葉は要らなかった。
僕は眼を開け、微笑んでいる由岐中さんに言ってみる。
「男同士っていいもんですね」
「バカッ、声が大きい!」
何を言ってるんだ、この人は?
道端で大胆にキスしておきながら……。
唖然としたけれど僕は「すみません」と素直に謝った。
僕は見習い。先輩刑事を立てなくてはいけないのだ。
なんだか意味深だけど。

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