AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

3


六本木署の強行犯係は七人編成だ。
係長の平松巌警部補。
先任主任の磯崎巡査部長。この人は今、療養中だ。
次席主任の由岐中さん。
その下に係員が三人だが、そのうちの二人は汐留署に立った合同捜査本部に駆り出されていて、新藤巡査だけが残っている。
汐留署に行っている二人はともに強行犯十ウン年というベテランの巡査長で、残った新藤巡査はまだ刑事になって三年目の若手だ。
もう一人、デスクワーク担当の最古参・野瀬主任がいるが、捜査にはタッチしない。
会計や書類の整理が仕事だ。
確かに「猫の手」よりはマシ、と僕に白羽の矢がたったの無理はない。
翌日、研修初日はやはり朝から忙しかった。
昨日の強盗事件の事後処理、それに隣のショカツから回ってきた放火事件の聞き込みがまだ続く。
昨日逮捕された三人組は指紋から別の事件にも関わっていることが判り、拘置所へ移されることになった。
大島課長は「よくやったな」と僕と由岐中さんを誉めた。
「バンに乗ってた奴は主犯格で、なかなかしぶといが、あとの連中がヘラヘラしゃべってる」
「なるほど、それで仲間なのに轢き殺そうとしたんだな。
 ダイスケ、お前の判断は正しかったんだ」
由岐中さんが褒めてくれ、僕はかなり嬉しかった。
さらに課長が「複数の件の犯人なら、昨日の君の発砲はチャラになるぞ」と言ってくれたので、僕はほっとした。
研修のしょっぱなから「危険な刑事」というレッテルを貼られたくない。
夕方になると、聞き込みに出ていた同じ強行犯の平松刑事と新藤刑事が帰ってきた。
こちらは連続して起こったピッキングの居直り強盗を追っているのだそうだ。
強行犯係長・平松巌警部補は、背は低く、そこらのおじさんといった地味な顔だ。
酒好きらしく、ちょっと鼻は赤い。
僕の顔を見ると寄ってきて肩をバシンと叩いた。
「昨日のことは聞いてるぞ」と笑う。
「顔はなかなか優男なのに、とんだジャジャ馬だな」
係長と組んでいるのは新藤穂積巡査だ。
こちらは背が高く手足が長くて、くりっとした大きな眼をしている。
刑事ものTVドラマの主人公みたいに甘い二枚目だ。
ふわっとした前髪は太い眉毛を隠すほど伸びていて、きっと床屋へ行く暇もないに違いない。
僕にちらりと眼をやると、すぐに給湯所へ入っていってお茶の準備を始める。
僕は慌てて書きかけの書類を置いて飛んでいった。
お茶汲みは新米の役目なのだ。
「新藤先輩、僕がやります」
新藤刑事は「いいから、自分の仕事をしろ」と応える。
「実務研修のときは自分のことだけ考えてろ。
 おれも必死だった」
僕に背を向け、ちゃっちゃと手際よく準備をする。
僕は手伝う機会を与えられず、また机に戻った。
「シンコウ、今日のお茶はなんだ?」
「静岡の深煎り茶です」
平松刑事はお茶を飲みながら課長に「どうです、こいつの歓迎会でもやりますか」と話し掛ける。
「そうだな……ガンさんがそう言うなら……」
大島課長は離れたところで書類を書いていた由岐中さんにちらりと目をやった。
次に手前の机で書類を書いている細身の男へと「シオさん」と声をかけた。
「シオさん」は眼鏡の蔓に手をやると持っていた鉛筆を耳に挟み、課長と僕の方を見た。
細面の顔に生真面目そうな細い眼、銀縁の眼鏡。
襟までぴんとしたYシャツと紺色のレジュメンタルタイ。
有能な銀行マンのようだ。
机もきっちり整理整頓が成っている。
「シオさんも付き合ってくれるか?」
いいですとも、と盗犯係長の塩路刑事が請合う。
「じゃあ今夜、ちょっとやるか」
「ええっ、そんな、結構です」
僕は恐縮して手を振った。
すると平松刑事が「いいんだって、お前は単なる口実なんだからさ」と笑う。
「あ、そうなんですかー」
頭を掻いていると、大島課長が再び由岐中さんへと眼をやるのに気づいた。
「ユキ、お前もな。指導係なんだから付き合えよ」
「はあ……いいっすよ」
由岐中さんは投げやりに応える。
その態度がまるで昨日、国東さんと飲んだときの雰囲気と違うので、僕はちょっと驚いた。


夜になって大島課長以下、塩路係長・平松係長・由岐中さん、それに新藤刑事と僕という面々は六本木の街に繰り出した。
そうはいっても、職業柄(昨日のような)変な店に入るわけには行かない。
大島課長が選んだのは六本木交叉点のすぐ傍の小奇麗な焼き鳥屋だった。
内部は黒を基調としたナイトクラブかバーのようなインテリアで、カウンター形式と個室だ。
鮨屋のようなピカピカに磨かれたカウンターで、大きなダクトのせいかまったく煙臭くない。
外国人の客がたくさんカウンターについている。
大島課長は奥の個室を選んだ。
乾杯が済むと隣の大島課長は僕にせっせと焼き鳥を勧める。
部下にも気を配るなんて、まめな性格だ。
やっぱ、中間管理職なんだ……。
「大網白里の出身だそうだね、いいところだろう、魚が美味しくて」
「はあ、まあ……それぐらいしか自慢するものはないですけど」
「いやいや、はっはっはっ」
これでは胃にくるな、と僕はまた教頭先生の顔を思い浮かべる。
そのうち酒量が進み、確かにみんな僕のことなど忘れてしまって勝手に話をしている。
長い卓の端っこにいる由岐中さんはベテランの平松係長と額を寄せ合い、真面目な顔で会話している。
ふいに大島課長が「どうかね、指導係のユキは」と尋ねた。
「とっても気さくで、頼りになります」
本心からの答えだったが「ほう」と大島課長は驚いたように由岐中さんをうかがった。
「それはいい。
 君と気が合うのなら……刑事ってのは気の合うペアで仕事をすると、効率は倍になるんだ。
 ユキはなかなか気を許さないタイプでね。一度裏切られたからだろうが……」
最後のほうははっきりせず、僕は「裏切られた?」と鸚鵡返しに尋ねた。
だみ声のガンさんのおかげでこちらの声は由岐中さんに届いていないようで、大島課長は「まあ、どうせすぐ知れる」と目の前のジョッキに手を伸ばした。
「ユキが本店にいたことはもう聞いているだろう?」
それは昨日の国東さんとの会話でも出ていた。
僕はうなずく。
「うちへは降格されたようなものだが、その原因は上司とそりが合わなかったことなんだ。
 私も詳しくは知らないが、相手は相当おかんむりだったらしい。
 ユキの親戚に警察庁の元刑事局長というお偉方がいなければ、離島どころか事務職に回されたのでは、とも言われたくらいでね」
さっき大島課長の誘いをちょっと由岐中さんはめんどくさそうに受けていたっけ。
「そうなんだよ、同僚にそのことで同情されるのを、あいつは嫌がっていて……飲み会の誘いにもあんまり乗ってこない」
だろうな、と僕は思った。
だいたい飲むとサラリーマンって奴は上司の悪口になりがちだ。
警官だって立派なサラリーマンだ。
そういったとき、降格人事について蒸し返されるのは由岐中さんの竹を割ったような性格では嫌に違いない。
だが、と大島課長はビールで喉を湿らせると続ける。
「彼は名刑事だよ。
 見ていて判る。いや、まだ発展途上だ。
 名刑事になるだろう。
 君をつけたのはそのためだ。
 君も必ず何かを学ぶはずだ」
刑事人生の最初に名刑事に出会うことは重要だ、と大島課長は僕の目を覗き込んで言った。
「君の刑事人生を左右するような名刑事にね」
先輩たちから何度も聞いた同じ言葉。
最近不祥事などで叩かれることが多いが、こういったとき、僕はたまらない愛情を警察という組織に感じる。
古臭いかも知れないけれど、人と人の繋がり、血が通った人間関係、そして職業に対する誇り。
僕は元気に「はい」と答え、敬礼する。
「不肖城崎大輔、六本木署で一人前の刑事になるよう頑張ります!」
大島課長は目を剥いた。
「ううむ、キザキ君、君はなかなか、元気がいいねえ」
さすが、僕の名字を間違えることはもうなかった。


刑事の勤務態勢は基本的には四日勤務し一日休む。
それは建前で、事件が起きたり重大事件の捜査本部が設置されたりすれば何日も休めないことは日常だ。
六本木署の強行犯係は人手が足りないこともあって、僕も覚悟していた。
だが研修三日目の夕方、由岐中さんは「明日は絶対休め」と僕に命じた。
「え、でも……」
「研修生に超過勤務を命じるなんてことはできない、いいな、命令だ」
指導刑事に言われては仕方がない。
それに非番とはいえ、僕にも考えがあった。
翌日、僕はバッグパックを背負い、地図を片手に車庫から自転車を引き出した。
ジーパンにスタジャン、スニーカーという出で立ちで、ちょっと考えて警察手帳は携帯しないことに決めた。
本当はいつ何時でも携帯せよ、という建前だが別にこれがなくても現行犯逮捕ならいつでも(そして誰でも)行える、と法律上決められているから困らない。
刑事たるもの、土地勘を養わなくてはいい仕事ができない。
卒配された国立でも僕は暇さえあれば自転車や徒歩で管轄内を廻ったのだ。
六本木署でもまずそれをやろう、と僕は決めていた。
表通りから一本入るとそこはビジネス街から様変わりしてちょっと寂しい高級住宅街だ。
僕はシマノ十段式をこぎ続けた。
かつて宮様のお屋敷だったという公園の傍まで来ると、僕は一休みをすることにした。
公園の入り口の前にはスーパーマーケットがあった。もちろんそんじょそこらのスーパーとは違って土地柄上、輸入品などを扱う高級店だ。
外国人の客が多く、広い駐車場には外交官を表すブルーのナンバープレートを掲げた高級車が停まっている。
「うわー、さっすが大使館の多い港区だよ……」
それに高級車の種類は多く、まるでモーターショウだ。
開店時間から間もないので、まだ駐車場はがら空きだ。
僕は自転車を乗り入れると、隅っこへ行き、降りてタイヤ止めに腰を下ろした。
地図を広げ、通った道を赤く塗りつぶしながらそこで見た家の外観などを思い出し、記憶に刻み込む。
首から下げていたペットボトルの蓋を開けた。
一口、二口と飲んでいると、店からいかにも高級住宅地のヤングママといった女性が幼稚園ぐらいの女の子の手を引いて出てきた。
スーパーの紙袋を下げている。
二人は黒いセルシオの脇を過ぎ、真っ赤なBMWへと歩いていく。
と、突然セルシオの後部ドアが左右一緒のタイミングで大きく開いた。
「えっ」
危険の徴候だ。
そう、まさに誘拐犯などの手口で見られるような。
僕が立上がるのとほぼ同時に後部座席から大柄な黒服の男が二人、飛び出す。
そして母娘に襲いかかった。
予想した通りだ。
僕は一瞬の躊躇もなくそちらの方向へとダッシュしていた。
黒服にサングラスの男たちは母親の両腕を引っ張っている。
母親は娘を庇いながらも必死でしゃがみ込み、抵抗している。
「おいっ、何をしているっ」
僕は走りながら大声で怒鳴った。
男たちは一瞬、身体を竦ませると、母親を離し、さっとセルシオに戻った。
セルシオは急発進するとそのままタイヤを軋ませながら駐車場から走り去る。
僕は追おうと思ったが、考えを変えて母娘のところへ戻った。
「大丈夫ですか!」
僕は真っ青な顔で震えている女性へと声を掛けた。
近くで見ると肩までのワンレンの髪に色白で目がバンビのように大きく、女優のような美女だった。
真っ白なツーピースに首には真珠のネックレス、さげているのはキャラメル色のケリーバッグ。
女の子のほうはピンク色のレースがいっぱいついたワンピースを着ている。
こちらはあまり早い展開についていけず、怖がるというよりは驚いてきょとんとしている。
一瞬泣き出しそうに口元を歪めたが、僕が「大丈夫だよ」と言うようににっこりしてみせると、ほっとした顔になって母親にしがみついた。
僕は女性に注意深く「あの、ひょっとしてさらわれそうになったのではありませんか」と尋ねた。
状況的には誘拐の現行犯のようであったが、最近は別居中の片親が子供を取り戻そうとした、という場合もある。
誘拐と決めつけるのは危険だ。
女性は立上がると首を縦に振った。
「知っている人ですか?」
重ねて尋ねると首を横に振る。
「では警察へ届けた方がいいのでは?」
すると女性は真っ青な顔を僕に向け「やめて!」と叫ぶように答えた。
「駄目、絶対!」
はっと手を口に持っていく。
「ごめんなさい……大声を出して……」
そして深く腰を折った。
「ありがとうございます……あなたがいなかったら……」
震え声で礼を言う。
「いえ、ちょうど居合わせてよかったです」
女性は潤んだ眼で僕をじっと見る。
「あの、今見たことは誰にも言わないで下さい、お願い……警察には特に」
何かある、と思った。
だが突っ込んで訊くのは控え「解りました」と応える。すると女性はホッとした表情になった。
そして「お礼をさせてください、機会を改めて」と言う。
「お名前と連絡先をうかがっても宜しいかしら」
僕は本能的に警官と名乗るのをやめようと決断した。
携帯の番号を教えると、にせの名を名乗る。
「永瀬剛士といいます」
世話になった駐在さんの名だ。
「私は宇津木紗耶香です。
 この子は紗緒里」
僕は地面に散らばっていたチーズとブラックオリーブの缶詰を拾い、紙袋に入れると宇津木紗耶香に渡してやった。
宇津木紗耶香はもう一度僕にお辞儀をし、紗緒里を抱えるようにしてBMWに乗り込んだ。
紗緒里はもうすっかり元気になって、窓から僕に「ばいばい」と手を振る。
駐車場から出ていく赤いBMW751iのナンバープレートを僕はしっかり記憶に刻んだ。
もちろんさっきのセルシオの番号もちゃんと見取っている。自慢じゃないが(いや、自慢か)視力は3・0なのだ。
これからすることは決まっている。
僕は自転車に戻ると六本木署を目指した。


刑事部屋に入ると、すでに携帯で連絡を付けていたので由岐中さんが待っていた。
「誘拐未遂、しかもわけありだって?」
「ええ、多分」
ヤッチャン御用達のセルシオ、それに金持ち風の若妻、僕は暴力団の抗争絡みを想像していた。
「このナンバーを調べて下さい」
僕はBMWのナンバーを告げる。
由岐中さんは早速パソコンで車庫証明を調べにかかった。
「車両登録は宇津木明夫名義。けど、車庫証明はうちの所轄にはないな……」
少なくとも名字は本物だ。
金持ちだったら、二台ぐらい車を持ってるかも、と僕は思いついた。
「だったら宇津木紗耶香、という名前で別の車が登録されていませんか?」
僕が尋ねた瞬間、「おい、それって」と机の向こう側から声がかかった。
盗犯係の塩路係長だった。
「なんだ、どうしたんだ、その人が」
「いえ……」
僕は手短にあったことを述べた。
塩路係長は「妙だな」と首をひねる。
「妙って?」
「その名前……聞いたことがある。
 ちょっと待て」
塩路係長はロッカーへ行き、ファイルを調べ始めた。
「あった、これだ。
 二月ほど前、被害届を出したのがその宇津木紗耶香だ」
一枚の書類を抜き取って、塩路係長はこちらへ振ってみせる。
「よくある車上荒らしだよ。
 七丁目の雑居ビルの前に停めている間にやられた、ということだったが」
「それのどこがおかしいんだ」と由岐中さん。
「一週間後に勘違いだった、と届けを取り下げたんだ」
塩路係長は別の書類を指し示す。
「届けでは盗られたのはバーキンにノートパソコン、それにハイウェイカード。
それが勘違いって、妙だと思ったんだよ」
書類を見るとその時に被害にあったのはベンツSLEだった。
「今日、僕の見たのは赤いBMWでしたよ」
「SLEは父親の車だという話だったな……」
塩路係長はまた別の書類を捲る。
「そうだ、車両登録は……ああ、これだ。大坪政彦」
「なんだって?」
隣にいた由岐中さんが大声を出した。
「ダイスケ、その宇津木紗耶香ってひょっとして女優並みの美女だったか?」
僕と塩路係長が同時に「はい」「ああ」と応えた。
「だから覚えてたんだよ。
 たかだか車上荒らしでもな」
由岐中さんは参ったというように両手を上げる。
「結婚して宇津木になったのか……」
塩路係長は「知り合いなのか?」と由岐中さんに尋ねた。
「ええ。
 景山の従妹ですよ」
かげやま? 
初めて聞く名だったが、塩路係長は知っているようでぴくりと眉を動かす。
眼鏡の蔓に手をやった。
「景山か……どうも君はその名からは逃れられないようだな。
 しかしその従妹の宇津木紗耶香は何かトラブルに遇っているのかな」
塩路係長の眼は鋭く由岐中さんを見ている。
「シオさん、すみませんがこの件はおれに任せてください」
いいだろう、と塩路係長はファイルを閉じた。
「私も景山さんにはかかわりたくないからね」
かげやま……僕には何のことか解らない。
怪訝な顔をしている僕に由岐中さんは「セルシオのナンバーは見たか?」と尋ねた。
「あ、はい、もちろんです」
いずれは僕にも話してくれるだろう。
僕はそう思って由岐中さんにナンバーを書き付けたメモを渡した。
由岐中さんはコンピュータを操作して、セルシオがとある会社の持ち物であることを突き止める。
「広告会社だ……車庫証明はこの近くになっている。
 行ってみるか」
僕はハイと答えて、戸口のほうへと歩いていく由岐中さんの後に続いた。
「ダイスケ、お前は非番だろう」
「先輩、それはないですよ。
 もともと僕が持ち込んだんですから」
それに、と刑事部屋を出たところで僕は付け足す。
「僕にちゃんと話してください。
『かげやま』さんて誰ですか?
 教えてくれるまでつきまといますからね」
「おおっ、刑事魂が芽生えたようだな」
由岐中さんは茶化したがそんなことでは誤魔化されない。
僕の厳しい視線に根負けしたのか由岐中さんは道すがら「景山はキャリアだ」と説明した。
「キャリア……」
ああ、東大法学部出のな、と由岐中さん。
「風景の景に山。
 おれが本店にいたときの上司だよ。
 紗耶香さんはその従妹で、おれも会ったことがあるんだ。
 結婚前は大坪という姓だった」
取りあえずの説明は受けたが、由岐中さんの口調には苦いものが感じられ、裏にはもっと深い関わりがあるのではと思わせる。
さらに塩路係長のコメントも加味するとなにやらそれはきな臭かった。
『なにかある……絶対!』
刑事の勘、という奴だ。
だが敢えて突っ込まず、僕は由岐中さんの後に付いて歩き続けた。
セルシオの保管場所標章証書いわゆる車庫証明に登録されていた住所を訪ねると、そこは六本木から少し離れたところにある古くからの商店街だった。
小さな雑居ビルで、僕たちはその会社を訪ねたが、閉まっていた。
ひとけがまったく感じられず、一階の郵便受けからは郵便や新聞が溢れている。
「こりゃ潰れたな」
由岐中さんが言い、僕も同じ意見だった。
僕たちは近所の聞き込みに廻り、その会社が潰れて夜逃げした、と知った。
闇金の取り立てにも遭っていたとのことだった。
「セルシオはカタに取られたんだろうな……」
由岐中さんは呟いた。
「じゃあ、僕が考えていたようにヤクザですかね」
「かも知れないが……紗耶香がマルBとかかわるはずがない」
不用意に漏らした由岐中さんの言葉に僕は敏感に反応してしまった。
すごい美人の宇津木紗耶香。
その彼女を名前で呼ぶ由岐中さん。
二人の間には絶対何かがあったに違いない……。
僕の想像におかまいなく、由岐中さんはかつて会社の入っていたビルの前で考え込んでいた。
眉間には皺が寄り、表情は厳しかった。
「僕、ちょっと探ってみますよ」
僕は思い切って提案した。
「ダイスケ、でも……」
迷う由岐中さんにたたみかける。
「勘、って言うのはおこがましいですが、なんだか変ですよ、だって身内に警察庁のキャリアがいるんでしょう?
 それが『絶対警察は駄目』って言ったんですよ?
 由岐中さんだって心配でしょう?」
由岐中さんはうむとうなずいた。
「だがお前を……」
「だって先輩は顔を知られてるじゃないですか。
 自分、警官と名乗りませんでしたし、探るにはちょうど良いと思うんです」
ついに由岐中さんは「解った」と口に出した。
「娘と一緒に連れ去られそうになったのを、内緒にしてくれって言うのはいかにもおかしい。
 事件に繋がる可能性は捨てきれない」
「そうですよ、それにもしそうなったら、その景山っていうキャリアの人もまずいんじゃないですか?」
その途端、由岐中さんはひどく複雑な表情になった。
何というか、怒りというより哀しみというような……。
『やっぱり何かあるんだ……』
僕の想像は確信に変わっていた。

・・・HOME・・・BACK・・・NEXT・・・